ゆとり社長を教育せよ。
高柳さんのマネージャー、間宮さんに心から同情した私の取った行動は、ひとつ。
“撮影中にNGを出しまくる”――というもの。
柔らかい表情をしろ、と言われれば、対ゆとりくん用のキツイ顔をして見せる。
恋人同士の役なんだから高柳さんにもっと近づけ、と言われれば、照れてしまってそれができない振りをした。
それが功を奏して撮影は押しまくり、スタッフの表情に“なんで素人を連れて来たんだ”という苛立ちが滲み始めた。
それに気が付いたらしい高柳さんが、セットであるベッドに座る私の隣に腰かけて、スタッフに聞こえないような小声で聞いてきた。
「――もしかして、わざとですか?」
……そうよ。何でも自分の思いどおりになると思ったら大間違いって、あなたにわからせるためにね。
そう思いつつも黙って前を向いたままの私に、高柳さんは言う。
「マネージャーが何か言いました?」
「いいえ。間宮さんはただ、誰かさんにもっと立派な俳優になってほしいって願ってるだけです」
「……嘘ですよ、そんなの。アイツは調子に乗ってる俺がさっさと干されればいいと思ってる。だからいつも口うるさいんだ」
なんですって……?
鼻で笑いながら言った高柳さんをキッと睨んで、私は思わず怒鳴ってしまう。
「どうして、一番近くであなたを心配している人の気持ちがわからないのよ!」