ゆとり社長を教育せよ。


必要以上に口うるさいのは、その人を成長させたいがためのこと。

高柳さんとマネージャーとの関係が、自分と社長の関係性と重なって、私は自分でも驚くくらい熱くなっていた。


「あなたは今が一番大事な時でしょ? そんなときにわがままばっかり言って、周りからの信頼を失ってしまったら、あとで痛い目を見るのはあなたなのよ?」


私の声が響く以外スタジオはしんとしていて、恥ずかしいけれど止められない。

高柳さんは目を丸くして、私の顔をじっと見ていた。



「あなたが素晴らしい俳優だってこと、たくさんの人にわかってもらうには、あなたがただテレビに出て仕事をこなすだけじゃダメなのよ。
スタッフさんたちといい関係性を築いて、みんなで気持ち良くひとつのモノを作り上げることが大事なんじゃないの?
あなたに実力があることはみんな知ってるわ。知ってるからこそ、もっと人間としても成長して欲しいんじゃない!」



……ああ、すっきりした。

ふん、と鼻から息を漏らして私は再び前を向く。

高柳さんの心に響いたかどうかはわからないけど、言いたいことは言えた。

彼は間宮さんを“口うるさい”と言っていたけど、彼女優しそうだから、きっとこれほど強くは今まで言ってこなかったはず。

ちょっとヒステリックになりすぎたかもしれないけど、これが少しはいい薬になってくれればな……



「……高梨さん」



静かな声で、高柳さんが私を呼んだ。

黙って彼の方を向くと、その表情は今まで見たことのないまじめなものだった。


< 74 / 165 >

この作品をシェア

pagetop