ゆとり社長を教育せよ。
「今まで、そんな真剣に俺を怒ってくれる人いませんでした。なんていうか、目が覚めました、あなたのお陰で」
「……もう間宮さんのこと困らせちゃだめよ」
「わかってます。あとでちゃんと彼女にも謝ります」
……よかった。少し天狗になっていただけで、彼の本質そのものは全然腐ってないみたい。
彼の出した答えを聞いてふっと微笑むと、今まで私たちのやり取りを黙って見ていたスタッフたちのいる方から、ぱらぱらと拍手が聞こえてきた。
な、なんか、今さらだけどすごく恥ずかしいかも……
ちら、と間宮さんの方を見ると、感極まったのか目元にハンカチ当てていた。それを見てほっとするのと同時に、視界の端に何か不吉なものが見えた気がした。
まさか……今は会議中のはずだし、ここにいるはずが……
おそるおそる視線を移動させると、スタジオの隅にはスタッフに混じって手を叩く社長の姿が。
「な、なんでここに……」
「どうかしましたか?」
急に様子の変わった私に気付いたのか、高柳さんがそう言って首を傾げた。
「いえ、別に何も」
「そうですか。そしたら、早いとこやっちゃいましょ、撮影」
「そう、ですね。すいません、さっきのNGはわざとなので、今度はきちんとやります」
高柳さんの方に向き直り、小さく息を吐いた時だった。
「あ――その前に、お礼」
「お礼?」
聞き返した瞬間、後頭部に差し込まれたのは大きな手。
高柳さんの黒髪が目の前でさらりと揺れ、伏せられた彼の睫毛が長くて、さすが俳優――なんてぼんやり思っていたら、唇にそっと、あたたかいものが触れていた。