ゆとり社長を教育せよ。


「ん、なっ――!」


何すんのよーっ!!

と、言う間もなく、高柳さんはそのまま私の身体に覆い被さる。

ちょっと、何これ?
公衆の面前で何やっちゃってるのよ!

真上にある彼の顔を思いっきり睨むと、口元に人差し指を立てて「しっ」という仕草をする彼。


「カメラ、回ってますよ?」

「え……?」


首を動かしてカメラの方を向くと、その近くにいた監督さんに口パクで「続けて!」と合図された。

なんで、こんなタイミングで……!?

ていうか、肝心のチョコは!?


――と思っていたら、忍者のようにサササと近づいてきたスタッフが、高柳さんにチョコの箱を手渡して、サササと戻っていった。

高柳さんはそこから一粒チョコを取り出して、ゆっくりとした動作で口にくわえた。

トキメキはしないけど、とりあえず妙にエロい。

あーあ、もう台本通りやればいいんでしょ!


とはいえ、台詞はないので動作だけ。

私は彼の首に腕を回して、ぜえぇったいに唇が触れないように用心しながら、口でチョコを受け取った。


そうしてしばらく無言で見つめ合うっていうわけのわからないストーリーを演じ終えた私たち。

カットの声がかかると同時に私がしたことと言えば。



「……ちょっと。高柳遠矢」



低い声で、私は彼を呼ぶ。

涼しい顔でペットボトルの水なんか飲んでるんじゃないわよ。

いくら私がオーバーサーティだからって、女子の唇を断りもなく奪った罪は重いわよ……


< 76 / 165 >

この作品をシェア

pagetop