ゆとり社長を教育せよ。
パシンッ――!!
自分の手がヒリヒリと痛むほど思いっきり、高柳さんの頬を手のひらで叩いた。
私の本職は女優じゃない。
だから、さっきのキスを“仕事だから”と割りきることなんてできないのよ……!
「……すいません」
片手でぶたれた頬を押さえた高柳さんは、意外にもあっさりと謝ってきた。
でも、謝るくらいならどうしてあんな事……!
「――ライバルの顔見たら、我慢できなくなっちゃって」
「は……?」
ライバル……?
高柳さんの視線を追うと、その場所には誰の姿もない。
そういえば、さっきまであそこに社長がいた気がするけど、もう帰ったみたい。
「会社に戻ったら、彼にお伝えください。“CMができたら、真っ先に社長室にお届けします”――って」
「社長室……?」
つまり、高柳さんのいう“彼”というのは、社長のことで。
すなわち、社長がライバル……ってこと?
「あの、うちの社長確かに見た目は整ってますけど、俳優として身を立てていくつもりは……」
怪訝な顔をして言った私を、高柳さんはクスクスと笑った。
「あぁ……これは彼も苦労しそうだ」
「……なにがですか」
「いえ、こっちの話です。――さ、モニターでさっきの演技の出来、確認しましょう」
結局、高柳さんの真意は何もわからぬまま。
無理矢理駆り出された仕事で私が得たものといえば、高柳さんのマネージャーから激しく感謝をされたことくらい。
あとは、キスは奪われるわ疲労とストレスは蓄積するわで、こんなこともう二度とやりたくないって感じ。
社に戻ったら、ゆとりくん愛用パンダクッション借りてふて寝したい気分よ……