ゆとり社長を教育せよ。


パシンッ――!!


自分の手がヒリヒリと痛むほど思いっきり、高柳さんの頬を手のひらで叩いた。

私の本職は女優じゃない。

だから、さっきのキスを“仕事だから”と割りきることなんてできないのよ……!


「……すいません」


片手でぶたれた頬を押さえた高柳さんは、意外にもあっさりと謝ってきた。

でも、謝るくらいならどうしてあんな事……!


「――ライバルの顔見たら、我慢できなくなっちゃって」

「は……?」

ライバル……?

高柳さんの視線を追うと、その場所には誰の姿もない。

そういえば、さっきまであそこに社長がいた気がするけど、もう帰ったみたい。


「会社に戻ったら、彼にお伝えください。“CMができたら、真っ先に社長室にお届けします”――って」

「社長室……?」


つまり、高柳さんのいう“彼”というのは、社長のことで。

すなわち、社長がライバル……ってこと?


「あの、うちの社長確かに見た目は整ってますけど、俳優として身を立てていくつもりは……」


怪訝な顔をして言った私を、高柳さんはクスクスと笑った。


「あぁ……これは彼も苦労しそうだ」

「……なにがですか」

「いえ、こっちの話です。――さ、モニターでさっきの演技の出来、確認しましょう」



結局、高柳さんの真意は何もわからぬまま。

無理矢理駆り出された仕事で私が得たものといえば、高柳さんのマネージャーから激しく感謝をされたことくらい。

あとは、キスは奪われるわ疲労とストレスは蓄積するわで、こんなこともう二度とやりたくないって感じ。


社に戻ったら、ゆとりくん愛用パンダクッション借りてふて寝したい気分よ……


< 77 / 165 >

この作品をシェア

pagetop