ゆとり社長を教育せよ。
9.告白と自覚
「ただいま戻りまし、た……」
ノックをしても返事がなかったから、また居眠りでも……と思ったら、社長室にはちゃんと起きている彼の姿があった。
でも、仕事をしているわけじゃなく、窓辺に佇んで外の景色をぼうっと見ているようだったけれど。
「……ああ、お帰りなさい」
振り向いた社長の笑顔は、ちょっと疲れが滲んでいていつもの明るさが少なかった。
朝の会議のせいだろうか。そういえば、海外研修の件はどうなったんだろう。
「あの……会議、どうでした?」
「うん。ちょっとピンチでしたよ、俺」
「ピンチ?」
社長は窓辺からデスクの方へ移動して、椅子にどかりと腰かける。
そして頬杖をついて私を見ると、こう言った。
「俺、ガーナに飛ばされるみたいです」
「ガーナ……って、え!?」
なんで、いきなりガーナ?
そんなところにうちの社の海外事業部はないし、いったい何をしに行くって言うの?
「一昨年から板チョコ募金ってやってるじゃないですか。それが一定の額に達したので、ガーナに水道をつくろうっていう事業にそろそろ着手しようってことになったんです。
それを俺が取り仕切れってことみたいで」
ガーナに、水道……それは、もちろん素晴らしい仕事には違いない。
やりがいだってあるだろうし。
でも、社長が行ってしまったら日本(こっち)はどうなるの?