調導師 ~眠りし龍の嘆き~
‡〜夜の攻防〜‡
『トスッ』っと身軽に窓枠に足をかけた”殺し屋”は、月光を背に受ける。
黒く長いコートの裾を風に靡かせるその様は、一枚の絵画の様に幻想的に見えた。
だがそれは一瞬で、もっと現実的な事に目がいってしまった。
「土足で上がるなよっ。
私が掃除するんだぞ」
見当違いの言葉を投げかけ、平静さを取り戻していく自分に、我ながら感心する。
同時に、クローゼットの中にある木刀を頭の端に思い浮かべ、タイミングを計る。
”殺し屋”が黒いコートの内側に手を滑り込ませたのを確認すると同時に、クローゼットを勢いよく開け、飛来するナイフを扉に命中させた。
記憶通りの場所にあった木刀を引っつかみ、放たれた次のナイフを叩き落とす。
静かに部屋へと侵入を果たした”殺し屋”は、悠然とこちらに向き直る。
間合いを取って木刀を構えると、相手は先程よりも大きな小刀を構えた。
一気に踏み込んできた”殺し屋”の月光を受けて鈍く光る獲物を避け、すかさずこちらも喉元目掛けて勢いよく突きを繰り出した。
残光を確認しながら、避けられた木刀を返しざま獲物を持つ手に一撃をお見舞いする。
確かな手応えと、小刀の落ちる音が響いた。
怯んだ相手の背中目掛けて、間をおかず木刀を叩きつける。
床を這った”殺し屋”の背骨に、切っ先を突き付け、息を整えた。
「誰に雇われた」
冷然と叩きつけるこちらの言葉に、”殺し屋”は動じることなく、大人しく床に顔を伏せている。
「美南都ちゃん?
どうかしたの?」
不意に部屋の扉が開き、祖父母がそろって心配顔で覗き込んでくる。
「っ!!」
こちらの意識がそれた一瞬の隙を突き、”殺し屋”は窓へと駆け、躊躇なく飛び降りた。
目が合ったと思った瞬間、光るナイフが腕を掠った。
「っ痛ぅっ…」
「美南都ちゃんっ!」
慌てて駆けよってくる祖父母が傷を確認するのを意識の端で感じながら、月光の中に消えていった”殺し屋”を思い、淡く光る月を睨みつける。
傷の痛みよりも、逃がした悔しさの方が気にかかっていた。
『トスッ』っと身軽に窓枠に足をかけた”殺し屋”は、月光を背に受ける。
黒く長いコートの裾を風に靡かせるその様は、一枚の絵画の様に幻想的に見えた。
だがそれは一瞬で、もっと現実的な事に目がいってしまった。
「土足で上がるなよっ。
私が掃除するんだぞ」
見当違いの言葉を投げかけ、平静さを取り戻していく自分に、我ながら感心する。
同時に、クローゼットの中にある木刀を頭の端に思い浮かべ、タイミングを計る。
”殺し屋”が黒いコートの内側に手を滑り込ませたのを確認すると同時に、クローゼットを勢いよく開け、飛来するナイフを扉に命中させた。
記憶通りの場所にあった木刀を引っつかみ、放たれた次のナイフを叩き落とす。
静かに部屋へと侵入を果たした”殺し屋”は、悠然とこちらに向き直る。
間合いを取って木刀を構えると、相手は先程よりも大きな小刀を構えた。
一気に踏み込んできた”殺し屋”の月光を受けて鈍く光る獲物を避け、すかさずこちらも喉元目掛けて勢いよく突きを繰り出した。
残光を確認しながら、避けられた木刀を返しざま獲物を持つ手に一撃をお見舞いする。
確かな手応えと、小刀の落ちる音が響いた。
怯んだ相手の背中目掛けて、間をおかず木刀を叩きつける。
床を這った”殺し屋”の背骨に、切っ先を突き付け、息を整えた。
「誰に雇われた」
冷然と叩きつけるこちらの言葉に、”殺し屋”は動じることなく、大人しく床に顔を伏せている。
「美南都ちゃん?
どうかしたの?」
不意に部屋の扉が開き、祖父母がそろって心配顔で覗き込んでくる。
「っ!!」
こちらの意識がそれた一瞬の隙を突き、”殺し屋”は窓へと駆け、躊躇なく飛び降りた。
目が合ったと思った瞬間、光るナイフが腕を掠った。
「っ痛ぅっ…」
「美南都ちゃんっ!」
慌てて駆けよってくる祖父母が傷を確認するのを意識の端で感じながら、月光の中に消えていった”殺し屋”を思い、淡く光る月を睨みつける。
傷の痛みよりも、逃がした悔しさの方が気にかかっていた。