調導師 ~眠りし龍の嘆き~
唐突に開かれた扉の前には、男が立っていた。

連れ出され、長い廊下を歩く。

歩くという行為が久しぶりなように思う。

ふとある部屋の前でとまった。


カチャン。


突き飛ばされるように入れられた部屋。

八畳程の大きさ。

畳の敷き詰められた床。

奥には一振りの刀。

そして。

「っ藤武っ!!」
「おかあさんっ」

抱き締める。

腕の中に納まる小さな身体。

別れた時から少し大きくなった。

涙が溢れる。

泣きじゃくる息子を抱いて。

「っ…ぁさんっ…ぅうっ」

元気に泣いている。

会えた。

良かった。

「しばらくここで過ごせ」

男はそれだけ言うと、扉を閉めていった。

鍵をかけられているのは変わらない。

けれど、息子がいる。

目の届く所に。

手の届く所に。

声が届く所に。

嬉しい。

喜びと安堵の心を胸に。

小さな息子を抱き締めて祈る。

早くあなたにも会えますように。

また三人であの家へ帰れますように。

幸せな時が帰って来ますように。

祈りは儚く。

運命の時はやってくる。




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