調導師 ~眠りし龍の嘆き~
「っ……ぅっ」

涙が止まらない。

嗚咽を抑える事ができない。

「…かないで……あなたっ……。
ねぇ…おし……て…。
……たし…なんば……め…?」


『私は何番目?』


今そんなことを聞く時ではないだろうに。

自分が今にも死んでしまうかもしれない時に。

「お…がい……。
おし……て…」
「ばかかっ。
今っそんなことっ…」

零れ落ちた涙が、妻の頬をぬらす。


ぷつり。


首にかけていたお守りの紐が唐突に千切れた。

落ちたお守りは、妻の手の上。

反射的に拾おうと手を伸ばす。


《教えて…あなた》


「っ!!」

聞こえた声は妻のもの。

はっきりと届く。

兄の時と同じ。

不意に思ってお守りごと手を握る。

《私は何番目?》

聞こえる。

間違いない。

「っ……一番に決まっているっ」
《……っ》

ふっと緩む妻の頬。

瞳が笑みの形を作る。

白い顔。

血の気が引いてきている。

もうあまり時間がない。

《あまり泣かないでね》

優しい声。

いたわるような響き。

こんな状態でも気遣ってくれる妻が愛しい。

《一番なら、なんの後悔もない》

優しい微笑み。

次第に弱まる呼吸。

まただ。

いつも見送ることしかできない。

何て無力。

旅立とうとしている大切な人。

逝かないでくれ。

どうか側にいてくれ。

もう、何も望まないから。

奪わないでくれ。
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