調導師 ~眠りし龍の嘆き~
何にも代えがたい存在。

妻の手が握ろうと向きを変える。

お守りは二人の手の中に納まる。


《ありがとう。
あなたに会えて事。
何よりの幸せだと思う。
愛してるわ。
永久に。
ね。
わかるでしょ?》


流れる涙をそのままに、うなずく。

何度も。

何度も。

「…ああ……永久に……」

ふっと重みを増す身体。

静かに目を閉じて、逝ってしまった。

大切な人の命が手から零れ落ちていく。

信じがたい現実。

真実。

もう戻らない。

帰ってはこない。

悲しみに沈んでいて気づかなかった。

背後にそっと近づいてきている気配。

刀が高々と振り上げられている。



ねぇ。

あなた。

私は幸せだった。

早くに両親を亡くして、生涯を孤独に過ごすと思っていた。

夜の公園で初めて声をかけた。

本当はね。

その二日前からあなたを見てた。

声をかけたあの時まで迷っていたの。

だって、本当にただボーっとしてたから。

何て声をかけようかずっと考えてたの。

早く話してみたかった。

同じだと感じたから。

大切な人を亡くす痛みを抱えているって気づいたから。

最初は同情だったのかもしれない。

家に来てなんて、言うつもりなかった。

ただ、あの瞬間口をついて出てた。


これを運命って言うのかしら。


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