調導師 ~眠りし龍の嘆き~
‡〜闇の中の攻防〜‡

鋭い痛みが左肩に突き刺さる。
反射的に押さえた肩から、深々と突き刺さっていた物を引き抜き足元に放った。
引き抜いた拍子に勢いよく流れ出る血に、内心動揺しながらも、胸にあるスカーフで止血する。
足元に転がったそれは、どう見ても昨晩投げ込まれたナイフと同じ物だった。
痛みをおして、用心の為に竹刀と共に持ち歩いていた木刀を構える。
街灯の明かりを避けるように数歩素早く後ずさり、充分に間合いをとって相手をしっかりと視界に留める。

「お前っ。
いいかげんにしろよっ」

不快な痛みに怒りの度合いもかなり上がり、少々乱暴な物言いになるのは致し方ない事だ。

「何とか言えっ」

体格からして間違いなく男だろう。
黒いコートは昨晩と同じものだ。
背丈も昨晩の者と変わらない。
間違いなく同一人物だ。

「……っ」

左腕に力が入らないのはかなりの痛手だが、負けてやるつもりは毛頭ない。
男が動いた。
小刀を構えて身軽に距離を詰めてくる。
まずは獲物を何とかすべきかと考え、小手の要領で腕を叩く。
しかし、昨晩の事で学習したのか、ほとんど手応えがない。
上に返しざま顎に向かって容赦なく切っ先を跳ね上げるが、寸前で避けられてしまった。
こちらも、男の獲物を首の皮一枚のところで避け、すかさず今度は後頭部目掛けて木刀を振り下ろす。
今度は確かな手応えがあった。
体勢を少し崩した男は、それでも瞬時に距離を取ろうと後ずさる。

「はぁ……はぁ……」

まずい事に、左肩の痛みが先程よりもかなり熱を帯びてきている。
そんなに動いたわけでもないのに息が上がる。
こちらの動揺を知ってか知らずか、態勢を整えた男は、いくつものナイフを放った。



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