調導師 ~眠りし龍の嘆き~
‡〜宿命の一族〜‡

「…美南ちゃんも、わかっとると思うが、宝堂はお父さんの実家じゃな。
宝堂とはな、調刀と言う力を持った一族でな」
「ちょうどう?」
「そう。
調刀の力を持つ一族は、主に刀の波調を聴き、あるべき場所と主を探し、管理する役目を担っておる。
刀は殺傷能力の高い武器じゃ。
扱う者が未熟であったり、波調の合わない者が持てば、その者は破滅、周囲の者をも巻き込む惨事を引き起こす。
じゃからこそ、調刀の役目を負った者が正しく導かなくてはならん。
だが現代、刀の主になれる者、扱える者は少なくなった。
勿論この治世じゃ、扱う場合もないしの。
多くの刀は、主を持つことなく宝堂の地下に納められておると聞く」
「……どうして、先生はそんな事を知っているのです?」
「美南ちゃんのお父さん。
フジタケから聞いたんじゃ。
それにわしは以前、宝堂の家で侍医をしておったんじゃよ」
「っ…」
「藤武の事は子どもの時から知っておる…。
一族の書物を読んだと言っては診察時間に色々と得た知識を話していったよ。
あれは、一族の中で最も調刀の力が強い子だった。
刀とは友達だと言っていたよ。
藤武には、調べではなく、声で聞こえると言っておった。
力を重んじる一族の者は、その力が外部に漏れることを恐れ、血族間での婚姻を続けていた。
そんな中で、藤武は外の人間を母親に持つ子どもだったんじゃ。
じゃから、一族は屋敷の外へ出さないように部屋に閉じ込められる形で幼少期を過ごしておった。
話せるのは部屋に一振り納めてあった刀だけじゃったと聞く」
「刀と話す…」
「そう、調刀の力じゃ。
刀の声が聞こえると言っておった。
常に主を求める性を持つ刀は、主と成り得る者を呼ぶのだそうじゃ。
その声を敏感に感じ取り、その者と刀を引き合わせるけとが役目なのじゃと…」

先生は、それだけ話すと『少し待っとれ』と言い置いて席を立って行った。


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