調導師 ~眠りし龍の嘆き~
‡〜届く声〜‡

しばらくして戻ってきた先生は、数十冊の本を抱えてきた。

「これは、宝堂の蔵で見つけた歴史書を解読し、写した物じゃ」
「何でそんな物を…」
「藤武が持ち込んだんじゃよ」
「とうさまが?」
「十数年掛けてやっと、こうしてまとめることができたと言ってな。
いつか必要になるかもしれないとも言っておったな」

そう言って上から数冊と、ポケットから出した黒い装丁の本をこちらに渡した。

「読んでみるといい。
その黒いのは、藤武の日記帳じゃ。
知りたい事、分からなかった事が全てその中にある」

手に取った父の日記帳をまじまじと見つめる。
こういう物があればいいと思っていた。
父の記憶は色あせて、この先きっと声も遠退いていく。
だから、確かな言葉として記された物があればいいのにと…。
父の物と言える物は、ほとんど手元に残らなかった。
遺骨でさえ行方知れずだ。
父を思い出す度に何度も幼かった自身を悔いた。
巻き戻らない時を呪った。
黒い父の日記は長い間使われていた物特有の手触りで、中を開けると涙が滲んだ。

声が聞こえる。

届けと願った想いが形になったように…。



《待っていた…
伝えたかった想いがある》




「っ!」

伝わってきた声は、バイト先の店で感じた感覚と同じものだ。

驚いて日記を取り落とす。

「どうしたの?」

心配そうに祖父母と先生が見ている。

「…なんでも…ないっ」




《やっと届いた》






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