調導師 ~眠りし龍の嘆き~
‡〜過去の贈り物〜‡

もはや疑いようもなく、はっきりと聞こえてくる。
微かに震える手で、今度はしっかりと日記を掴み、目を閉じて胸に抱き寄せる。




《とっても大切にしてくれた
全部つたえるから
それが役目》




流れ込んでくる。

父が日記に記した時の想い。

記されることのなかった複雑な想い。

一族への不快感。

娘ができたことへの喜び。

妻を亡くした深い悲しみ。

多くの父の感情が瞬間的に流れ込んでくる。
それは、言葉ではなく、声でもなく。
光りを感じるような調べで……。
目を開ける。
こぼれ落ちた涙を拭う事も忘れ息をつく。
あの時と同じような不思議な感覚が身体を駆け巡っている。

これが調刀。

いや違う。

「調導の力…」
「美南ちゃん?」
「感じる…力を……
受け継いでしまった私を心配してた……」

そして、危惧していた。
力があることを一族が知ったなら、捕えに来るかもしれない。
自由を奪われてしまうかもしれない。
この力を利用しようとするだろうか…もしかしたら邪魔に思うかもしれない。
父は、言い知れぬ不安をいつも抱いていたのだ。
外に出る度に少しピリピリするような感覚があったのを思い出す。
一族の住む場所からは離れた土地で、それでも不安は拭えなかった。

「だから夜、眠れなかったんだね…」

また涙が溢れてくる。
夜、隣りで眠る父は、完全に熟睡することはなかった。
いつでも一族の動きに対応できるように…細心の注意を払っていたのだ。

「先生。
その本、全て読ませてください」
「構わんよ。
必要になるだろうと思って持ってきたんだしな」

知らなければ…もう守ってけれていた父はいないのだから…。
使いこなさなくてはならない。
この力を一日でも早く。
それはそのまま力になる。
一族に対抗しうる力になる。


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