調導師 ~眠りし龍の嘆き~
‡〜始まりの歴史〜‡

数日して退院し、晴れて自宅療養を許可された。
肩の傷は、内側近くにあった為、思ったよりも深刻な状態だったようだ。
もうほんの少しでもズレていたら、命に関わる傷になっていた。
傷痕は残るかもしれないが、後遺症の心配はないとのことだった。
ベッドで何もできないでいる時間、無心に先生から借り受けた本を読み漁っていた。
その成果もあり、色々なことが分かってきた。




『その昔、物に宿る調べを聴き、在るべき場所へと導く事を生業としている村があった。
その村では村の中でのみ婚姻を繰り返し、子孫に力を残すことを必事としていた。
しかし、次第に力は弱まり、調べを聴くことができる物は、刀だけとなった』




今の一族が調刀と呼ぶ力の由来。
本来持っていた力は、調導の力。
調べを聴き、正しい主の元へと物を導く力。




『村が、一つの一族となる頃、強い力を持った刀が持ち込まれた。
その刀は見る者を惑わせ、闇の力を引き寄せる。
危険なその刀は、一族の長に委ねられた。
その刀は、調導の力によって深く封じ込まれた』




唯一、強い調導の力を持った一族の長でなければ、封じることはできなかったのだろう。




『強力な力を持つ刀を、真に鎮めるこてができるのは、それに対を成す力を持った刀。
一族の末席に連なる者達は、長の命により、対となる力を宿した刀を探す為、各地へと散って行った』




対を成す力を持った刀を探さなければ、封じが解けてしまった時、対抗する術がないと言う事なのだろう。
力の弱まった一族の者達は、不安を抱えて生きなくてはならない。
封じが解けた時どのような災厄がふりかかるのか……その訪れるであろう災厄を回避すべく各地へと旅に出たのだ。

「美南都ちゃん。
少し休んだら?」

心配そうに部屋に入ってきていた祖母が、床に散乱した本を呆れ顔で見て言う。

「大丈夫だよ。
今は寝るか、本を読むことしかできないし」

寝る間を惜しんで読み続けた歴史書は、あと数冊を残すだけとなった。

読み終わったばかりの本を床に置き、次の書を取ろうと手を伸ばす。




《……べを………け…》







< 19 / 130 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop