調導師 ~眠りし龍の嘆き~
‡〜独りの部屋〜‡

「なんで…」

眠る前に必ず問う。
数えで七つになった夜。

空を切り取った、部屋で唯一の小さな鉄格子の窓には、枠いっぱいに大きな眩しい程の月が鎮座している。

震える程の寒い日々は過ぎたが、ほんの四畳半の部屋に一人きり。

夜は毛布を巻き付けて調度いい具合だ。




父が死んで一年。
この部屋に入って一年。




食事は二度、扉の下に付けられた小さな窓から差し込まれるし、水道もトイレも整っている。

生きていくのに決して不自由ではない一人きりの空間。

「なぜ…ここにいるんだろう……」

それは、何百回と唱えてきた言葉………。

ふと月光が遮られたように感じ、窓に目を向けると、丸く黒い物が月の下半分を切り取っている。

「誰かいるの?」

聞こえたのは、まだ幼さの消えていない少し高めの声。

「っだれ?」

この部屋に入ってから初めての外からの声に驚き、思わず問いかける。

「僕は…この家で暮らしてる…」
「ここの…?」
「…君は誰?どうしてこんな………
屋敷で一番奥の部屋に?」
「ここは、わたしのへや。
ずっと ひとり…ここに いる……」
「…どうして?」

心臓が騒いでいる。
こんなに話しをするのは、いつぶりだろう。
何とも言えない不安。
誰とも話す機会のない時間が多過ぎたせいだ。
話しをすることが少し恐ろしいとも思う。
けれど口からは次々と言葉が溢れてくる。

「とうさまが しんで、しらない おばさんたちが、このへやに いなさいって…いわれた」
「………」
「くらくて、さみしい けど、ここに いるの」

なぜかこの人は信用できると思った。
なぜかは分からないけれど直感のようなものだろう。

「そっちに行ってあげるっ待っててっ」
「…っまっ…まって…」





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