調導師 ~眠りし龍の嘆き~
第四章 想いは愛しく
‡〜つかの間の平穏〜‡

「おはよう」
「おはよう。
もう大丈夫か?」
「うん」

朝食の用意が進められているテーブルで、祖父は新聞を広げながら顔色を確認しようと覗き込んでくる。

「ごめんね。
朝食の用意できなくて…」
「何言ってるの。
私もたまにはこうやって朝食を作らないと、早く呆けるわ」
「はは。
おばあちゃんはまだまだ平気だよ」
「調子良い事言わないの。
その気になっちゃうじゃない」

明るい食卓。

数日部屋に閉じこもっていただけなのに、とても懐かしく感じられる。

「今日は久しぶりにバイトしてくるね。
長いこと休んじゃったから…」
「あまり遅くなるなよ」

心配してくれる祖父母にわかったよと返し、家を出る。
学校では、一週間近く休んだ事もあり、友人達は大袈裟にはしゃぎ立てる。
まさかナイフの刺し傷の治りが悪かったなどとは言えず、もう大丈夫だと言葉を濁して対応するしかなかった。
放課後、久方ぶりに顔を出した店では、長期に渡って連絡もせずに休んだ事に対して怒ることもせず、心配顔で優しく店主は迎えいれてくれた。

「あまり無理しないでね」
「ありがとうございます」

一週間。

短いと感じるのに、ずっと長い間来られなかったように感じられる。
きっと自身にとって、この場所はとても大切で特別な場所なんだろうと思う。




《聞こえる 足音 あの人 会いたい》

《会いに来て》

《ここにいるよ》




心を鎮め、神経を研ぎ澄ませる。
驚くほどの多くの声が聞こえてくる。

会いたがっている。

求めている。

物は誰の手に渡るべきなのかを知っている。
その人に届けと声を発する。




《こっち 来て 会いたかった》






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