調導師 ~眠りし龍の嘆き~
‡〜後悔〜‡
母親は、俺が小学校へ上がるまでには、正気を無くしていた。
狂ったように『しんたろうさん。しんたろうさん』と窓のに向かって座り、どこか遠くを見ながら唱えていたのを覚えている。
夜は静かに涙を流しながら。
昼は幸せそうな微笑を浮かべながら。
同居していた祖母がいなければ、とうに俺は餓死していただろう。
もうすぐ八つの誕生日を迎えるという頃、学校から帰ると、知らない男が祖母と話していた。
黒いコートを椅子にかけて、冷たい印象の男は、振り向いて俺を見た。
『これがそうか』
まるで、うとましい物を見るように発せられた冷酷な声を今でも忘れることはできない。
祖母の『お願いします』という沈痛な言葉の響きに不安を感じながら、母親の部屋へと男が向かっていくのを黙って見ていた。
「やっぱり、傷は残るなぁ」
「別にいいよ。
気にしてないから」
「でもなぁ」
「むしろカッコイイと思わない?
京子さんはどう思う?」
「う~ん。
美南ちゃんには似合いそうだけど…女の子だし…」
「似合うならいいじゃん」
この声の主を知っている。
大切に思っていた。
人が寄り付かない最奥の部屋に一人閉じ込められて、寂しいと言っていた小さな女の子。
外に出ることを恐れていた幼い子ども。
そして、命令とは言え…。
知らなかったとは言え…。
この手で殺そうとした女の子…。
「あっ。
目が覚めたって」
「何で分かるんじゃ?」
「この小刀が教えてくれるんだ」
「そうか。
なら、ちょっくら様子を見てみるかの」
母親は、俺が小学校へ上がるまでには、正気を無くしていた。
狂ったように『しんたろうさん。しんたろうさん』と窓のに向かって座り、どこか遠くを見ながら唱えていたのを覚えている。
夜は静かに涙を流しながら。
昼は幸せそうな微笑を浮かべながら。
同居していた祖母がいなければ、とうに俺は餓死していただろう。
もうすぐ八つの誕生日を迎えるという頃、学校から帰ると、知らない男が祖母と話していた。
黒いコートを椅子にかけて、冷たい印象の男は、振り向いて俺を見た。
『これがそうか』
まるで、うとましい物を見るように発せられた冷酷な声を今でも忘れることはできない。
祖母の『お願いします』という沈痛な言葉の響きに不安を感じながら、母親の部屋へと男が向かっていくのを黙って見ていた。
「やっぱり、傷は残るなぁ」
「別にいいよ。
気にしてないから」
「でもなぁ」
「むしろカッコイイと思わない?
京子さんはどう思う?」
「う~ん。
美南ちゃんには似合いそうだけど…女の子だし…」
「似合うならいいじゃん」
この声の主を知っている。
大切に思っていた。
人が寄り付かない最奥の部屋に一人閉じ込められて、寂しいと言っていた小さな女の子。
外に出ることを恐れていた幼い子ども。
そして、命令とは言え…。
知らなかったとは言え…。
この手で殺そうとした女の子…。
「あっ。
目が覚めたって」
「何で分かるんじゃ?」
「この小刀が教えてくれるんだ」
「そうか。
なら、ちょっくら様子を見てみるかの」