調導師 ~眠りし龍の嘆き~
‡〜引き離された二人〜‡

二人同時に秦に襲い掛かってきた男達を見て、邪魔にならないように数歩下がる。
残りの一人を視界の端に捉え、こちらも態勢を整えた。
秦は、身体を沈めて襲い掛かる一人の拳を避けると、もう一人に回し蹴りをくらわせる。
蹴り飛ばされた男は、バランスを崩して最初の一人にぶつかり、そろって地に這った。
下になった男は、素早く這い出すと、体当たりで秦を地に縫い止める。

「秦っ!」

こちらも見とれてはいられない。
端からやってきた残りの男に、持っていたカバンを顔面めがけて振り下ろし、見事に決まった攻撃に、男は顔面を押さえ悶絶し、よろけながら後退する。
それを確認してから秦に駆け寄る。
覆いかぶさっている男に一撃食らわせようとしたその時、腹を押さえて起き上がったもう一人の男が腕を掴み引っ張った。

「離せっ」

戦いの時に思わず出る品のない言葉。
先程の様にカバンで応戦しようとした時、振り上げたもう片方の手を、男が赤くなった鼻を気にすることもなく引っ掴んだ。

「くッ!離してっ!」

完全に押さえ込まれた両腕を何とか解こうともがくが、大の大人の男の力にびくともしない。

「美南都っ!!」

引きずられるように車へと引っ張られる。

「美南都っ…くそッどけッ!」

秦が押さえ付けていた男を跳ね飛ばし、駆け寄ってくる。

「ッッ痛!」
「秦っ!!」

何が起こったのか、一瞬の事で分からなかった。
気配に振り返れば、運転席からゆっくりと降り立った男は、冷たい視線を投げかける。

「とうさんっ…」

深々と右の太ももに刺さる小さな銀のナイフは、男の冷徹な印象を更に強めている。

「愚かな…」

吐き捨てるように呟く言葉と共に、放たれた十数本の光りが、避け切れずに秦の肩や
腕、身体の数ヶ所に突き刺さる。

「やめてッ!秦っ!!
だれっ…んっ!」

叫ぶ口を塞がれ、声が出ない。

「んんっ!!」

ゆっくりと傾いでゆく秦の姿が、涙で霞んでいく。
車に押し込められる瞬間、拳がみぞおちに打ち込まれる。
薄れていく意識を感じながら、秦の名を声にならない声で幾度となく叫んでいた。



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