調導師 ~眠りし龍の嘆き~
‡〜背負うモノ〜‡

「これは…」
「我らでも手に余る…」
「仕方あるまい」
「長…」
「うむ。
これも役目…」

届けられた刀は、禍々しい程の穢を宿していた。
一人の僧が届けた刀。
一族の人間だった者だ。
各地に散らばった刀の所有者を選別する為にとの名目で、長く旅に出ていた男。
その彼がどうすることもできずに持ち帰った。
一族の者は、誰もがその能力によって、刀の持った記憶を読み取った。

多くの血。
云われなき殺戮。
赤く染められた大地。
そして…刀の悲痛な叫び。

誰もがその悲惨な記憶に目を背けた。
決意と共に受け入れると唱えたのは長。
一族を束ね、最も強い力を秘めた者。

「大丈夫なのですか?
一歩間違えば、こちらの身を滅ぼす事に…」
「常に手元に置き、波調を正してやればよいのだ」
「それは、長の力あってこそ…。
永遠には続きません…」
「ああ。
私も年だ。
後継である息子に、私の死後は任せる。
その先も力ある者が守らねばならん」
「ですが力はっ…」
「分かっておる。
受け継がれる力は、脆弱になって行く。
真にこの刀をおさめるには…探さねばならん」
「探す…?」
「そうだ。
この刀の真の姿。
本来の波調。
二つに分かれた刀。
その片割れを探せ」

長には見えていた。
清浄な気。
美しい青き龍の装飾。
本来の刀の姿が…。

「命を与える。
この片割れを探せ。
あるはずだ。
求めて啼く声。
呼び合う声が聞こえるはずだ。
何年かかっても必ず」

あの男が語った。
この刀を託すと言って。
片割れは、いつか必ず一族の手に導かれる。
けれど、それは刀に真に選ばれた人間の下にだ。
選ばれし者が現れるのは遥か未来。
それまで役目を忘れずにいられるかも分からない。


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