調導師 ~眠りし龍の嘆き~
‡〜愚か者〜‡

「…っ無礼な女だなっ!
この上もない光栄なことだろう。
私の妻に選ばれたんだぞ」
「あんたの妻になんか、死んでもならないッ」
「っくッ…」
「ふうん。
ちょっとは自尊心て物があるみたいね。
何も考えてないおぼっちゃんかと思ったのに」
「それ以上、私を侮辱してみろッ!
ただじゃおかないッ!!」
「侮辱してるのはそっちでしょッ!
だいたい、私を殺そうとしておいて、よくそんな事言えるわねッ。
その上これは誘拐!
ふざけんじゃないわよッ!
どの面下げて結婚しろなんて言えるのよッ笑っちゃうわっ」

本当に頭にくる。
何だこの身勝手さ。
バカ殿でももう少しましだ。
ただの子どもの癇癪と変わりないじゃないか。
ただでさえ、秦の事が気に掛かっていると言うのに、こんな餓鬼のお守りなんてしていられない。
憤慨覚めやらぬまま、部屋から出ようと手近な襖を勢いよく開ける。

「おいっ!
どこへ行くッ。
まだ話は終わっていないっ!」
「あんたとの話しなんて始まった覚えももうないわよ。
帰る」
「ふざけるなッ黙って帰すと思うのかっ?」
「勝手に出ていくから構うんじゃない!
気が立ってるんだ!
これ以上馬鹿なことを言うつもりなら殴り飛ばすっ!」

部屋から出て、適当な方角へ進む。
壁に触れれば、出口を教えてくれるのだ。
頭にきている分、力が敏感に働いているようで、迷う事なく進む事ができた。



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