調導師 ~眠りし龍の嘆き~
‡〜導かれ〜‡

難なく外へ裸足のまま駆け出ると、目の前には多くの人が並んでいた。

「捕まえろッ」

後ろから追ってきた当主を振り向きもせずに、ずかずかと集まる人々の隙間を縫って走りぬける。

「どけッ!!」

捕まえようと伸びる手をはねのけ、躊躇することなく体当たりで道を空けて走る。
外へ出るには、門を探さなくてはならない。
何とか人の群れを脱出したが、しつこく大勢で追いかけてくる。
年寄りが多い為か、振り切ることは容易かもしれないが…。

ようやく塀が見えた。
広い敷地だ。
門も一つと言うことはないだろう。
だが、追いかけてくる人を引き連れながら探すとなると、精神的に参ってしまう。
乱れた息を整える暇もなく、手近な物陰を探すことにした。
どうせ、門付近は今頃固められているだろう。
隠れて脱出の算段を立てなければ…。
それに、先程から感じるこの屋敷を包む気は異常だ。
負の気に満ち満ちて、息苦しささえ感じる。




《…なと……》




「っ…?!」

一瞬聞こえた声には聞き覚えがあるように感じた。




《みなと…》




はっきりと聞こえた声は、まぎれもなく亡き父のものだ。
ありえるはずがない。
けれど、無視することもできない。

「…くッ…」

意を決して声を辿る。
そこには、古ぼけた社のような建物があった。




《こっちだ はやく》




懐かしい声に誘われ、人が近くにいないことを確認すると、そっと中へ進入する。
奥へと進むと、祭壇のようなものに突き当たってしまった。




《みなと こっちだよ》




声は、祭壇の下辺りから響いてくる。
力を使って、仕掛けがないかを聴いてみる。
すると思った通り、碁盤の目のような物があり、そこに特定の石を、決められた順番
で置くように教えてくれた。
『カシッ』と言う音と共に、下に続く階段が現れた。
躊躇する事なく、薄暗い階段をゆっくりと降りていく。
なぜか地下なのに暗いとは感じない。
仄かな明かりが奥には満ちていた。



< 42 / 130 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop