調導師 ~眠りし龍の嘆き~
‡〜犠牲〜‡

恐る恐る手を伸ばし、柄をつかむ。
引き抜こうと力を入れるが、かなわない。

「何をしている」
「抜く事ができません…」

深く刺さった刀は、不動の物とし、びくともしない。

「おい。
お前がゆけ」
「は…?
ですが、案内するだけだと…」
「いいから、抜けッ!!」

男の怒声に、託宣を受けた者は、慌てて刀のもとへと走る。

「えっ!!」

それまでびくともしなかった刀は、簡単に抜くことができた。

「良くやった。
これへ」

震えが来る。
渡してはいけない。
この場所から動かしてはいけない。
迷いが渦巻く。

「これへっ」
「はっはいっ」

震える手で、ひざまづいて捧げ持つ。

「ふははっ。
素晴らしい。
素晴らしいぞ」

刀を手に取った男は、歓喜に震える。

「良くやってくれた。
褒美をとらせよう」
「はっ。
ありがとう存じます」

思いもよらぬ言葉に素直に喜びを現す。
しかし、男は何を思ったのか、刀を抜いた。

「褒美だっ。
この刀の最初の獲物としての栄誉をなっ」

あっと思った時には遅かった。
身体から迸る血を止めることはできない。
一気に冷えていく身体の感覚。
近くなっていく地面。
草の間を赤い血が流れる。
大地を赤く染め上げていく。
息をするのが難しくなる。

「…っめですっ……穢れっ……」



《穢れてしまった
離れなければ
血を覚えてしまった》



聞こえる声は、薄れゆく意識の中、響いてくる。


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