調導師 ~眠りし龍の嘆き~
‡〜真実と涙〜‡

「殺されそうになったわしを、一族から逃がしてくれたんは、この慎太郎じゃ。
わしは、その後顔を変え、名前を変え、もう一度何食わぬ顔で一族の侍医になった。
一族に復習するには、一族の情報が必要じゃと思ったからな。
そこで息子に会えるとも知らずに…。
藤武はわしの息子じゃ」
「…っ!!」
「そしてまた…息子を失った…。
父親だと名乗る事も出来ず…。
妻も息子も、遺骨さえ手に入らなんだ…」
「……」
「遺体の行方は、私でも知る事ができなかった…。
何人かあの刀で殺され、数人の遺体はどこぞかに持ち出されてしまった…」
「…この奥です…。
父と、幾人かの遺体があります」
「なんじゃとっ!!」
「この奥は氷室なんです。
腐ることなく、安置されています…」
「っ!!」

先生は傷に構うことなく起き上がり、奥へとふらつきながら駆けていく。
その後に続いて、先生の身体を支えようと駆け出した秦の父親が駆ける。

「うぅっ!!
藤武っ!
奈津絵っ!!」

しばらくして、奥からは、先生の嘆く声が聞こえてきた。
その声を聴いていると、途端に父の死に顔が思い浮かぶ。
もう泣かないつもりだったのに…。
涙は涸れることなく溢れてくる。
秦はそんな私を抱き寄せ、悲しみを癒すように背を撫でる。
悲しみは消えることはないのだと訴えるように、流れ出る涙を止めることはできなかった。



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