調導師 ~眠りし龍の嘆き~
‡〜夜明け前〜‡

「今までのようにッ守るべき力の為に血族感での婚姻を続ければッいずれ力も、一族さえも絶える事になるッ。
そんな事も分からないのですかッ!!」
「「……っ!!」」

一様に息を呑む。

「気づいているはずっ!!
なぜ分かろうとしないのですッ!!」

怒りが溢れ出す。
ここにいる者達を残らず殴り倒したい。
激しい激情。
そんな心の葛藤をしていると、後ろから肩を優しく叩かれた。

「永久先生…」

怒りの為に涙が滲んできた目を優しく拭ってくれる。
私の半歩前にゆっくりと進み出し、一族の者に語りかける。

「濃くなった血は命を縮めるじゃろう。
更に、不安定な力は一層命を縮める。
短命な子どもしか生まれなくなるじゃろう」
「「なんだとっ…」」
「じゃが、美南ちゃんのように外の血を受けた子どもが力を持って生まれる事もある。
血は濃くすれば良いというものではない。
受け継ぐ事も大事じゃが、受け継ぐ事のできる子どもを想わなければ、本末転倒じゃろ?」

シンと静まりかえる。
自分達の中でゆっくりと反芻する。
痛いほどの沈黙。
変われれば良い。
失くさなくても良い命。
犠牲になった命。
大切なものをはきちがえてはいけない。
守るべき対象を忘れてはいけない。
自分の中に燻る怒りを納める。
心を落ち着けて向き合う。
間違ってしまった愚かな一族。
教えられる者がいなかったのだ。
皆に見捨てられてきたのだ。
救わなくてはいけない。
このままではいけない。
変えなくてはいけない。

「これからも、力は受け継がれて行くでしょう。
けれど、間違えてはいけない。
力を守って行くことだけに囚われてはいけない。
理解できませんか?」

皆、顔を上げて静かに耳を傾けている。
大丈夫だ。
話しが聞けるのならば。
まだ、やり直せる。
大丈夫。



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