調導師 ~眠りし龍の嘆き~
‡〜別れの涙〜‡

「…先ずは葬儀を…。
犠牲となった人々にお詫びを…。
できますね?」

問いかけに素直に頷く人々。
秦と慎太郎が共に指示にあたる。
多くの遺体。
それらの親族への連絡もしなくてはならない。
ほとんどが外と関わりを持った人だった。
人数分の棺を用意し、慌しく祭壇の用意を済ませる頃には、丸二日たっていた。
氷室から遺体が運び出され、形ばかりの通夜が執り行われた。

「ううっ。
おにいちゃぁぁぁんっ…」
「っうっくっ。
あぁぁぁぁんっ」
「お前らぁぁぁぁぁっ!!」

嘆き悲しむ親族の声。
一族の者達と乱闘になる事もしばしば。
その度に、取り押さえて説明する。
許される事ではないけれど、謝るしか他ない。
絶たれた命は帰ってはこないのだから。

「美南都ちゃんっ!!」
「おじいちゃん。
おばあちゃんっ」

あちらこちらと段取りなどに、気絶してしまった当主に代わり奔走していて気づかなかった。
そこには、揃って今まさに駆けつけたと言わんばかりの祖父母の姿。

「…っうつっ…」

気が抜ける。
安心する。
涙が溢れ出す。
この事態の中、悲しみに暮れることさえできなかった。
休む事などできなかったのだ。

「とうさまがっ…っ」
「美南都ちゃんっ…」
「泣きなさい。
美南都…。
良く頑張ったな…」

祖父母は、一緒に悲しみを分かち合うように抱き締めてくれる。
温もりを感じる。
私は一人じゃない。
悲しみはいつか消えるけれど、忘れない。

「…っありがとうっ…もう行くね。
……ちゃんと帰るから…」

全て済んだら帰る。

父と共に…。



< 64 / 130 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop