調導師 ~眠りし龍の嘆き~
‡〜新たな関係〜‡

「こんにちは」
「おう。
待っとったぞい」

先生は目覚めてから、三日と空けずに診察に訪れた。
ようやく起き上がることが許されても、こうして週に何度も診察に来るように言われている。
あの戦いで先生が負った傷は、浅かったこともあり、かなり早く回復した。
秦も同様に、さすがに足の傷は酷かったが、順調に回復していった。

「今日は遊園地に遊びに行くんじゃろ?」
「うん。
楽しみっ」
「あんまりはしゃぎ過ぎるでないぞ」
「…それは医者として言ってる?
おじいちゃんとして言ってるの?」
「ふははっ。
後者じゃっ」
「じゃっ。
適当にはしゃぐっ」
「……何でじゃ……」

永久先生は父の葬儀の間、こちらが心配になるほど憔悴した表情をしていた。
心がどうかなってしまったのではないかと本気で心配した程だ。
けれど、目覚めた時はもう以前と同じ調子に戻っていた。
家に来れば、必ず仏壇で手を合わせ、長い間語りあっていく。
祖父母に父の親なのだと告げてからは、一層足げく通ってくるようになった。
祖父母との話も以前にも増して弾むようだ。

「ねぇ。
もう診察受けなくても大丈夫でしょ?」
「むうぅ。
孫に会いたいと云うこの老人の心情を少しは理解してくれんかのう」
「だからこうして会いに来てるじゃん」
「美南都っ。
終わったか?」
「あっ。
は~い。
今行くっ。
ほら、もういいでしょ?
秦が迎えに来ちゃった」
「仕方ないのぅ…」

心底残念と肩を落として呟く。

「そんじゃ。
行ってまいります」

出口に向かって駆け、そこで待っていたラフな格好をした秦に少し目を見張る。

「普通の格好だ…」
「別にいいだろ?
変か?」
「ううん。
いい感じ」

新鮮だ。
装い一つで世界が変わって見える。
秦はあれから、お父さんとこの近くにアパートを借りて生活している。
親子の誤解も解け、それなりに楽しく過ごしているようだ。

「よし。
じゃあ行こうか」

少し照れているのか、こちらの手を素早く握り、手を繋いで歩き出す。
未だに慣れないでいる事が可愛らしい。


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