調導師 ~眠りし龍の嘆き~
「武さんですね。
トニエと申します。
よろしくお願いいたします」
「よろしく」

名乗った名前は、十二枝と書く。

なんて事はない。

十二番目の娘だからだ。

いいかげんな名前。

父たちの方がまだましな方かもしれない。

この娘は、力がかなり弱いと聞いたことがある。

そして、彼女はまだ十五のはずだ。

「父に、あなたと結婚するように言われました」
「そのようだ」
「愛してほしいとは申しません。
せめて子どもをくださいませ」
「……」

一族の女はこんなものだ。

結婚とは子どもを成す事だと思っている。

愛など存在しない。

形式上、結婚という事にするだけだ。

「くだらない…」

相手に聞こえない小さな声で呟いて、決意する。

いつかは、必ず外に出てやる。




一年後。

生まれた子どもは娘だった。

どれほど愛していない妻との子どもでも、自分の子どもであることには変わりなく、素直に愛しいと思う。

凍り付いていた心が溶けていく。

「兄さん。
見てくれ。
可愛いだろ」

抱けるようになって、一番最初に見せたいと思った。

兄は優しく目元をほころばせて頷く。

「この子は、もう力があるんじゃないかって言われてる」
「大丈夫なのかい?」
「そんなに身体は弱くないみたいだ」
「そうか。
よかった」

本当に案じてくれている兄の心に、温かさを感じる。

大きくなる娘を、時間ができれば兄に合わせた。

可愛がってくれる兄が嬉しかった。

娘も兄を好きなようで、いつでも会いたがった。

「にいたま。
あいりね。
にいたま、しゅきっ」
「うん。
兄様も愛理の事好きだよ」

無邪気に笑って兄に抱きついていく。

兄も、本当に可愛いと言うように抱き締める。
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