調導師 ~眠りし龍の嘆き~
娘は遊び疲れたのか、兄の布団の上で眠ってしまった。

抱き上げ、身体の弱い兄を気遣って顔色を見る。

「疲れただろ?
少し休んで」
「ありがとう。
楽しかったよ」

顔色が悪い。

無理をさせてしまったかもしれない。

「また後で来る。
呼ばれてるんだ」

辛そうな兄を想い、部屋を出る。

娘を妻の元へ連れて行こうと歩きだす。

「…だ…だな…」
「……?」

眠る娘を起こさぬように、聞こえてきた声に引き寄せられるようにある部屋の前で立ち止まる。

「お父様とおっしゃった通りにしてまいりました。
認めてくださるでしょ?」
「ああ。
良くやった」
「娘の力が覚醒いたしました。
これで、お父様の娘として認めてくださいますでしょ?」
「そうだな。
男が欲しかったが…。
まあ良い。
お前は可愛い私の娘だ」
「お父様…」

妻の声だ。

そして義父の声。

そう言う事かと納得する。

力を持った子どもを生めば、父親に関心を持ってもらえる。

そんな浅はかな考えで俺と結婚したのだ。

途端に今腕の中で眠っている娘が煩わしく思えた。

分かっていたことだ。

一族の女は、力ある子どもを生んでこそ存在意義を得る。

この子どももいずれ、そんな一族の考え方に染まっていくのだ。

ドタドタドタッ。

誰かがすごい勢いで廊下を走ってくる。

妻と父に、盗み聞きしていた事がばれてはいけない。

部屋から少し離れ、何食わぬ顔で賭けてくる人を見る。

「武様っ!
猛様がっ」
「っ…!」

襖を開け、何事かと確かめに出てきた妻に娘を預けると、急いで兄の部屋に駆け込む。

「兄さんっ!!

おたおたとする母親を突き飛ばすように横たわり脆鳴する兄の横に座る。

「兄さんっ」
「…ケシ…」
「しゃべらないでっ。
今薬をっ」
「いい…らない…タケシ…」
「っ何…?」

視界の端に父の姿が映る。

全く動じた様子もなく、冷めた目で見下ろしている。
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