調導師 ~眠りし龍の嘆き~
葬送の曲を奏でながら、骨になってしまった兄を前に静かに涙を流す。

兄が一番好きだと言ってくれた横笛。

新しい曲を披露する度に、嬉しそうに拍手を送ってくれた。

涸れる事無く流れ続けた涙は、同じ道を通りながら零れ落ちる。

想いは共に…。

けれど、涙を止めることはできない。

泣き止んでしまったら、兄が本当にいなくなってしまうように思うからだ。

あれから三日三晩泣き続けた。

今でも兄の言葉が残っている。

記憶にある優しい兄の声で…。

お守りは、一緒に火にくべることはできなかった。

まだ聞こえるのではないかと思ってしまったからだ。

聞こえるはずのない声を、いつまでも求めている。

笛を下に置くと、置いてあったお守りをもう一度手に取る。

聞こえるはずはない。

忘れることはできない。

強く握っても、力のない自分には声を聴く術を持たない。

「想いは共に…。
永久に…永遠に…」

最期の兄の言葉を唱える。

顔を上げると、部屋に置かれた刀が目に入った。

途端に死んでしまいたい衝動にかられる。

兄に会える。

会いたい。

もはや、強く求める想いが抑えることなどできない。

刀を手に取る。

 
ドクッ。


「っ!!」

自分の鼓動に驚いて反射的に手を離す。

座り込む。

《愛している》

聞こえてくる。

兄の声だ。

《お前は外に出るんだ。
想いは共にあるから…。
連れて行ってくれ…外へ》

「…っ」

都合の良い幻聴。

また新たな涙が滲む。

「行こう…兄さん……外へ」

立ち上がり、夜に寝静まる屋敷を抜け出す。
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