調導師 ~眠りし龍の嘆き~
不思議な感じだ。
テレビから聞こえてくる声。
用意された食事。
とても穏やかで、温かい想い。
今まで凪いでいた心が動き出す。
テーブルに兄を置き、お守りをその横に据える。
食事のいい匂いが、空かせた腹を刺激する。
迷わず箸を取った。
お腹が空いたと感じたのはいつだったろう。
公園で何日も空を見上げ、四度目の星空を見ていた頃だ。
落ち着いて兄の死を受け入れられた頃だ。
すっかり平らげた頃、女の子はシャワーを浴びて戻ってきた。
「味、濃くなかった?」
「ああ。
丁度良かった。
ごちそうさま」
「そう」
自身も冷たいお茶を注いで向かいの椅子に腰掛ける。
「自己紹介まだだったわ。
私、京野奈津絵。
よろしくね」
「俺は、宝堂武」
「変わった苗字ね。
どこにあるの?」
「…ここからは遠い。
出てきたんだ。
帰る気はない」
「ふぅ~ん。
じゃあ、ここで住んで。
私は構わないから。
部屋も余ってるしね。
そんで、これは誰の?」
「兄だ。
葬儀が終わった夜、家から持ち出した」
「大切なのね…」
「…なぜ?」
「だって、お金よりも、泊まる場所よりも大切だから持ってきたのでしょ?」
「……」
改めて気づく。
本当に大切な存在であること。
自分が生きる事よりも大切。
どんな存在よりも特別。
兄に見せてやりたかった。
この広い世界を…。
何よりも自由な場所を…。
テレビから聞こえてくる声。
用意された食事。
とても穏やかで、温かい想い。
今まで凪いでいた心が動き出す。
テーブルに兄を置き、お守りをその横に据える。
食事のいい匂いが、空かせた腹を刺激する。
迷わず箸を取った。
お腹が空いたと感じたのはいつだったろう。
公園で何日も空を見上げ、四度目の星空を見ていた頃だ。
落ち着いて兄の死を受け入れられた頃だ。
すっかり平らげた頃、女の子はシャワーを浴びて戻ってきた。
「味、濃くなかった?」
「ああ。
丁度良かった。
ごちそうさま」
「そう」
自身も冷たいお茶を注いで向かいの椅子に腰掛ける。
「自己紹介まだだったわ。
私、京野奈津絵。
よろしくね」
「俺は、宝堂武」
「変わった苗字ね。
どこにあるの?」
「…ここからは遠い。
出てきたんだ。
帰る気はない」
「ふぅ~ん。
じゃあ、ここで住んで。
私は構わないから。
部屋も余ってるしね。
そんで、これは誰の?」
「兄だ。
葬儀が終わった夜、家から持ち出した」
「大切なのね…」
「…なぜ?」
「だって、お金よりも、泊まる場所よりも大切だから持ってきたのでしょ?」
「……」
改めて気づく。
本当に大切な存在であること。
自分が生きる事よりも大切。
どんな存在よりも特別。
兄に見せてやりたかった。
この広い世界を…。
何よりも自由な場所を…。