調導師 ～眠りし龍の嘆き～

生きる事の意味が分からなかった。

まだ兄の死を心のどこかで認めていなかったからだ。

「私もそうだったの。
両親が事故で亡くなったって教えられて、葬式の時も、その後も、お墓の前で何日も動けなかった」

彼女は仏壇を見て独白する。

「病院に運び込まれても、何も考えられなかった。
食事は、むりやり食べるけど、別に食べたいとは思ってなかった。
何とか退院して、仏壇の前に座って思いっきり泣いて、気絶するみたいに眠った。
目が覚めたのは、お腹が空いたからだった」
「……」
「生きるって大変よね。
面倒だって思う。
食事しないとお腹空くし。
お腹空くとムカムカするし。
人間って面倒な生き物よね」
「辛くないのか？
一人で…」
「う～ん。
生きるしかないのかなって思っちゃったら、一人でいることに慣れてた。
私ってたくましいでしょ？」
「くくっ。
変なやつ」
「何よ。
私達、似た者同士だと思うけど？」
「…っなっ」
「ふふっ。
いいじゃん。
一人より二人って言うし、仲良くいこうよ」
「…よろしく…」
「うん」

こうして奇妙な同棲が始まった。

次の日曜日。

バイト先を探した。

生活するにはお金がかかる。

一族を抜け出した以上、家は頼れない。

すぐに慣れたバイトは、意外に楽しかった。

金銭的の余裕ができてきた頃、近くの診療所に出入りするようになった。

唯一の目標であった医者になる事を諦めてはいなかったからだ。

平日、時間が空いたら覗かせてもらい、勉強した。

「高卒認定検定受けるんだって？」
「ああ。
医者になりたいんだ。
高校へは行ってないから、高卒検定を受けないといけない」
「頑張ってね。
お兄さん、頭良いし。
絶対なれるよ」

勉強に力を入れる為、バイトを休み、収入が減っても彼女は文句を言わずに励まし、支えてくれた。