調導師 ~眠りし龍の嘆き~
「奈津絵っ!
高卒認定受かったぞっ!」
「やったぁ!!
お赤飯にしようっ」

それから、無事高卒の資格もとれ、希望の大学の医学部に合格する事が出来た。

我が事のように喜んでくれる彼女が愛しくて、そして大切な存在になっていた。

これまで、時間ができては一族の事や自身の事を話して聞かせた。

深く理解してくれると感じられる。

いつしか彼女は、俺をお兄さんと呼ばなくなった。

武さんと呼ぶようになっていた。

俺も奈津絵と呼ぶようになった。

「お墓参り行かなきゃね。
お兄さんに報告しないと」
「ああ。
明日一緒に行けるか?」
「うん。
大丈夫」

翌日はさっぱりとした空気の感じられる、青い空の眩しい一日となった。

兄の墓は、小高い丘の上。

景色の良い場所を選んで建てた。

外に出る事が叶わなかった兄への最期のプレゼントだ。

この場所は彼女と一緒に考えた。



見渡しの良い景色。
兄の好きだった藤の花。



墓前に立つと、何もできなかったあの頃の自分が悔やまれる。

「ここの藤は本当にキレイね」
「ああ。
香りも良い」
「うん。
花の中で一番好き」

清浄な印象。

心を慰めてくれる香り。

兄の部屋から見えていた唯一の花。

咲いた花を一日中眺めていた兄。

目を瞑れば、いつでも兄の声が聴こえてくる。

死に際の微笑みが浮かぶ。

お守りは、奈津絵が首から下げられるように紐を付けてくれた。

握ると、今でも声が聴こえてくるように感じられる。

「想いは共に…。
永久に…永遠に…」
「なぁに?
それ?」
「兄の最期の言葉だ。
ふとした時に思い出す」
「そう…」
「……」
「そろそろ帰ろうか」
「そうだな」

ゆっくりと墓を後にする。

走り出した奈津絵に、転ぶなよと言って笑う。

「大丈夫よ」

子どものように走りまわる彼女を愛しいと思う。

「ねぇっ」

遠く距離をおいて叫ぶように話しかけてくる。

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