調導師 ~眠りし龍の嘆き~
「っ何よ急に…っ」
「うん。
伝えたいなと思って…」
「変なの……っ」

後ろを向いてしまった彼女に目を向けると、耳がほんのり赤かった。

「好きだよ…」
「はいはい」

そっけない言葉とは裏腹に、濃くなっていく赤。

本当に愛しいと思う。

ずっと側にいてほしい。

誰にも渡したくない。

それは、傲慢な程の独占欲。

「誕生日。
もうすぐだったな」
「っうん」
「じゃあ、久しぶりにその日は出掛けよう」
「本当?
楽しみっ」




約束していた奈津絵の誕生日は、良い天気に恵まれた。

久々のまともな休みと言うこともあり、心は穏やかだ。

「どこ連れてってくれるの?」
「遊園地」
「なんで?」
「やっぱり、定番だろ?
それに、俺は行ったことがない」
「武さんが行きたいだけじゃん…」
「行きたくないのか?」
「……行きたい…」
「じゃあ。
行こう」

子どもの頃に一度は行くだろう遊園地。

一度も行った事はない。

連れて行ってくれる様な、まともな人はいなかった。

兄と二人で憧れたものだ。

楽しい時間。

子どものようにはしゃぐ。

「あ~。
楽しかった…」
「ああ。
また遊ぼうな」
「うん」

日が沈む。

そして、もう一つ計画していた場所へ向かう。

「どこ行くの?」
「分からないか?」
「…お墓…?」
「ああ」

兄の墓前に立つのは久しぶりだ。

二人、手を繋いで並ぶ。

彼女の誕生日のデートの最終地点が墓って言うのは、どうかと思うだろうが…。

「ここが良いと思ったんだ」
「デートの最期?」
「いや…」

少し機嫌が悪いように思う。

まあ、当たり前だ。

デートで寄るところでもない。

向き合って、内ポケットから用意していたプレゼントを出す。
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