調導師 ~眠りし龍の嘆き~
「……結婚してほしい…」
「っ……」

開いた小さなケースには、空に輝く星の光りを映した様な輝きのダイヤ。

「多くの想いを、二人で思い出にしていきたい。
たくさんの思い出を作りながら、一緒に生きていきたい」
「……っ…」
「受け取ってくれるか?」
「…っはいっ」

差し出された彼女の左手の薬指に納める。

ぴったりとはめ込まれた輝きは、美しい色を見せる。

手を繋いで、墓に向かう。

「兄さん。
愛する人ができた。
だから、ごめん。
兄さんを一番にしておく事はできない」
「っ……?」
「奈津絵を一番に愛している」
「っ武さんっ……」
「でも忘れてない。
想いは共に。
永久に。
永遠に。
いつまでも…」

大好きな兄さんの前で誓いたかった。

愛する人を認めてもらうために。

兄だけには、知ってもらいたかったから。

彼女を見つめる。

優しい微笑みが返ってくる。

一雫の涙が彼女の頬を伝った。

それが嬉しさからだと知ると、愛しさが溢れる。

そっと引き寄せて抱き締める。

きっともう、彼女以上に想う人とは出会わない。

これ程の想いを伝えたいと思える人は存在しない。

大切にしたい。

彼女を…。

そして、この想いを…。

感謝している。

家を飛び出すきっかけを作ってくれた兄に。

幸せをくれた彼女に。

そして祈る。



どうかこの幸せが続くように…。
想いが永遠であるように…。



願っている。




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