調導師 ~眠りし龍の嘆き~
「見てきた?」
「ああ。
可愛かった」

彼女と出会って十年。

婚約から一年。

待望の一子が生まれた。

新しい家族が増えた。

「名前は決めてくれた?」
「いや。
でも、今浮かんだ」

眠る子どもを見て思った。

俺が好きなもの。

愛しい存在。

「お前が好きなもの。
藤の花と、俺」
「……?」
「フジタケ。
藤に、武と書いて藤武」
「ふふっ。
気に入ったわ」

幸せそうに微笑む妻。

愛しい時間。

尊い時。

「ありがとう…。
愛してるよ。
奈津絵」
「ふふっ。
私も……」

大切な時間は、密やかに流れる。





「離せっ!!」

息子が五歳になる誕生日。

幸せな時を砕くように、家を襲ったのは、とうに捨て去った一族。

「何をするっ!!」

三台の車に、妻と息子が別れて乗せられる。

自身も残りの車へと押し込まれた。

「やめろっ!!」

怒りが込み上げてくる。

何だ、この仕打ちは。

触るな。

愛しい妻に。

大切な息子に。

そして、幸せな時間に。

なぜ今頃になって。

許せない。

迎えに来たと言ったこの男達も。

命令したであろう者も。

一族の人間全てを。



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