調導師 ~眠りし龍の嘆き~
大切にしていた物だから、大切にしてくれていた。

その言葉が嬉しくて、溢れる涙を止められない。

「お父様は泣き虫ですわね。
わたくし、泣き顔しかまともに覚えておりませんのよ。
ふふっ。
力を使えるようになって、笛に聴きましたの。
だから、憎むことなどいたしません。
今でも大好きですわ」
「愛理っ…っ」

笑顔を見せてやりたいと思うのに、涙が止まらない。

頬が引きつる。

思うように動かない顔。

「すまないっ。
すまなかったっ愛理っ。
俺は…俺が恥かしい…。
こんな父親ですまない……っ」

恥かしい。

こんなにも想ってくれる娘を忘れていたことが。

好いてくれている娘。

あの時疎ましいと一瞬でも思ってしまった。

こんなにも愛しい娘を疑った。

なんて情けない。

「お父様。
いつでも想っておりますわ。
永遠に。
この想いだけは、ずっと変わらない。
必ず助けます。
だから、どうか生きることだけは諦めないでください」

優しい眼差し。

いつの間にそんな目をするようになったのだろう。

一度は見捨てた父親を救いたいと思ってくれる。

この十数年、側にいられなかったことが悔やまれる。

なんて幸せなんだろう。

一族の中にあってさえ輝ける娘。

強い子に育ってくれた。

信念を持って生きられる子に。

「ありがとう…」

その言葉しか浮かばなかった。

優しい子に育ってくれてありがとう。

こんな酷い父親を許してくれてありがとう。

好きになってくれてありがとう。

一族に染まらないでいてくれてありがとう。

感謝する。

ありがとう。

笑顔で牢を後にする娘。

幸せであってほしい。

どうかその笑顔のまま。

願いは深い祈りへと変わる。

出会えた事に感謝する。

まだ希望は残っている。



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