調導師 ~眠りし龍の嘆き~
あれからまた月日が流れた。

娘は、時たまどうやってか、見張りの目を盗んでは会いにくる。

それまであった一族の事。

妻や息子が監禁されているであろう場所。

色々な情報を運んでくれる。

「ごめんなさい。
お父様。
三人一緒に出して差し上げたい。
けれど、中々機会が…」
「いや。
ありがとう。
充分だよ」

まだ最悪な状況にはなっていないようで安心する。

けれど、確実に月日は流れている。

「もう二年ですわ。
この牢に入れられて……。
こんなにかかるとは思いませんでした…」
「…お前は大丈夫なのか?」
「わたくしは、今や次期当主の母親ですので、なんの心配もありません」

思わぬ話しを聞いた。

「次期当主…?」
「はい。
息子は、身体は弱いですが、力はあります。
血の濃さから行けば、順当でしょう。
…最近は会っておりませんが…」
「?会ってない?」
「ええ。
御祖父様にどこかへ連れて行かれてしまって。
当主になるための準備だからと」

なんて勝手な。

思えば父は、本当に一族の力にしか興味のない人だった。

抱かれた覚えもない。

笑った顔を見たことがない。

いつだって自分が正しいと思っている。

「御祖父様は何を考えておられるのか……。
こうして自由に動ける立場は嬉しいのですが、当主と言う地位もどうかと思いますわ」
「…お前に害がないならいいさ」
「ふふっ。
お父様はお優しい。
この一族の中で、人間らしい心を持っているのは、お父様と御祖母様。
あとは数えるくらいしかおりませんわ」
「完全に一族に染まっていないからな。
母も、大人しい人だから、一族も気にしないんだろう。
あの父と結婚した事には感服する」
「まあ。
ふふっ。
あれで、しっかりしてらっしゃるんですのよ」
「一族の意志に染まり切らない所を見ると、確かに…。
なぜ、他の者は一族がおかしいことに気づかないのか……」

不思議だ。

外に出て強く思った。

狂っている。

おかしい所しかない。

こんなにもズレてしまっているのに気づかない。

それが不気味だ。

「…それがどうやら、意志だけの問題でもないようなのです」
「?どう言う事だ?」
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