調導師 ~眠りし龍の嘆き~
聞こえてきたのは十歳そこそこの子どもの声。

「…君は?」
「慎太郎と言う。
愛理様とは…友人だ」
「愛理はどうした?」
「愛理様は、体調を崩して床についておられる。
だから私が来た」

ぶっきらぼうな話し方。

けれど、不快だとは感じない。

娘が信頼して寄こしてくれた者だ。

子どもにしてはしっかりしている。

「愛理は大丈夫なのか?」
「…分からない。
もう一週間程、目を覚まされていない…」
「っ……」

なぜだ。

これまでそんな気配はなかった。

いつだって元気で…。

「っ力のせいか…っ」

そうだ。

兄だってそうだった。

力のせいで、身体が弱ってしまっていた。

「…それだけではないかもしれない…」
「?…どう言う事だ?」
「私は、いつだって愛理様のお側に控えていた。
それが仕事でもあるからだ。
倒れられる前。
愛理様の御祖父様がみえられた。
何かを渡されていたように思う」
「……」
「その後すぐだ。
倒れられたのは…。
帰られる御祖父様の手に、ちらっと小さな瓶が見えた。
薬を入れるような…」
「っ!!」

そうだ。

瓶。

見たことがある。

兄の死の直前だ。

目の端に映った父。

その袖口に、白磁の小さな物。

持っていた。

あれは白い瓶だ。

「……なぜ…」

今回と同じ物であるかは分からない。

けれど、妙ではある。

あの場で持っていた事。

急変した容態。

目を覚まさない娘。

何かあるはずだ。

兄の死と娘の変調。

原因は何だ。

「慎太郎くん。
頼みを聞いてくれるか?」
「もちろんだ。
その為に来た。
愛理様は、常々自分の身に何かあったら、父を頼りなさいと言っていた。
頼りにさせてもらう」
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