調導師 ~眠りし龍の嘆き~
「ああ。
調べる必要がある。
その父が持っていた物だ。
何のかを探らなくてはならない。
それと、まずは愛理に香を調合しよう。
薬と香木の保管されている蔵があったはずだ。
そこに行って、納品された物をまとめた台帳がある。
確か…黒と赤で模様が描かれた表紙だ。
それを取って来てくれ。
後、紙とペンを」
「分かった」

慎太郎が出て行って、落ち着いてもう一度思い出す。

なぜ、父が兄の部屋にいたのか。

いつもはほとんど近づかなかった。

会いに来る時は刀を持っていた。

調刀の力を使わせる為だ。

そして、終わればすぐに帰っていく。

兄に会いに来ていたのではない。

いつだって力を使わせる為に来ていた。

きっと兄を見ているのではなかったのだ。

力を見る為に来ていたのだ。

それは分かっていた。

力にしか興味を抱かない人。

けれど、だからこそ。

力を持った兄に何かするはずがない。

ましてや死なせてしまうなんて。

分からない。

愛理だって、強い力を持っている。

それこそ、刀以外の物の声を聴ける程。

どう言う事だ。

ますます父が分からない。

「持ってきたぞ」

思考に沈んでいて気づかなかった。

納品帳と紙。

ペンを持ってきた慎太郎の姿。

「随分と速かったな。
忍者のようだ」
「似たような訓練を受けている」

どう言う事か分からないが、真剣な響きがある。

「そうか。
助かる」

今はどうでも良い事だ。

持って来た納品帳を広げる。

紙に要る物を書き出していく。

兄の身体を治したいと言う強い想い。

叶える事はできなかったけれど、気づいたら考えていた。

どうすれば良かったのか。

どんな治療が必要なのか。
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