調導師 ~眠りし龍の嘆き~
完全に治すと言うわけにはいかない。

当たり前だ。

力と血の影響なのだから。

だから考えた。

虚弱な身体を癒す薬を。

この数十年。

様々な文献を読み漁り、研究した。

だから分かる。

香を、どう言う調合の物を用意すべきなのか。

薬は、眠ってしまっている者にはあまり効き目がない。

身体が休んでしまっているのだ。

飲ませた所で活動しない身体には意味がない。

その点、香ならば嗅覚を刺激し、直接脳へ影響を与えることができる。

調合する香木を書き出した紙を慎太郎に渡す。

「配分。
調合の仕方。
全てそこに書いた。
わからない所があったらまた来てくれ。
それができたら、瓶の事について、可能な限り探ってほしい」
「わかった。
報告にはまた来る」
「ああ。
頼む」

そして、いそいそと外へ出ていった。

「愛理…」

持ちなおしてくれればいい。

兄のように死なないでほしい。

死ぬときは、せめて側にいてやりたい。

いや。

死などあってはならない。

必ず救ってみせる。

「ふっ。
俺がこのざまで…救うなんて…っ」

ここから出る事もかなわないのに救うなんて…。

一人呟き独白する。

悔しい。

こんな時に何もできないことが。

愛する者達を助ける事もできない自分が。

そして気づく。

いつの間にこんなに増えたのだろう。

愛しいと思える人が。

この屋敷で何も知らずに生きていた頃。

愛する人は、兄ただ一人だった。

それで充分だった。

いつからこんなに欲張りになったのだろう。


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