After school【BL/mw】
「──そう言えば、あいつらが言ってた『条南高校の不良を倒した』とかいうのって、本当なの?」
余り聞かれたく無いことだったのか、ヒサギちゃんは何だか困った様に溜息を吐いた。
「本当だったら何だよ」
「……いや、何でそんな事になったのかな、って」
笑うなよ、と念を押してから、ヒサギちゃんは不機嫌そうに口を開く。
「──ナンパされたんだ」
「……は?」
ナンパ、って、あのナンパ?
「向こうが勝手に俺を女だと勘違いして声を掛けて来たんだ。男だって言ってもしつこく言い寄って来るから、思わず手が出て……。さすがにマズイなって思ったら、そいつ……」
言い掛けて、ヒサギちゃんの肩が小刻みに揺れ出した。
もしかして、泣いて……!?
「……っ、ははっ、ワリぃ。思い出したら、なんかっ」
わ、笑ってるヒサギちゃん初めて見た!!
ゲラゲラ笑うでもなく、込み上げて来るものを必死に堪える様にして口元を押さえている。
「やり返されるって身構えたら、俺の手を掴んで『お前に惚れた。もう一度殴ってくれないか』って! 手を離さねぇし、気持ち悪いから思いっきり蹴り飛ばして逃げて来たんだ」
「……えっ、それ全然笑い話じゃないよ! 一体いつの話?」
「春休み……だったかな。気持ち悪くて思い出したくも無かったけど、お前に話してたらなんかさ」
目尻に貯まった涙を指で拭いながらヒサギちゃんは、「話すとスッキリするってホントにあるんだな」なんて、ヤケに清々しい表情をしてるけど、俺の心は逆にもやもやが増えた気がする。
いくら相手に非があったとしても、暴力で切り抜けるのは良くない。
今回はたまたま相手に害意が無かっただけで、そうじゃなかったら大変なことになっていたかも知れない訳だ。
今日の事だって同じ。
確かにヒサギちゃんは見た目に寄らず腕力が強いのかもしれない。
今までにどれだけ今日みたいな事があったか俺には分からないけど、連戦連勝って訳じゃ無いはずだ。
事実、怪我だってしているんだし。
このままじゃいつか……。
いつか、取り返しの付かない事になったっておかしくない。
俺はヒサギちゃんに、そんな風にはなって欲しくない。