コイアメ、コイトモ
「……奏?」

彼の兄が死んで一週間。京介は夜の散歩をしていた。

そんな時、愛してやまない少女の姿。


「どうしたの?その恰好」

いつもとは違う格好。

いつもとは違う持ち物。

京介の頭に不安が湧いた。


「鴻上家長男、鴻上源五郎」


「え?」


少年は小首をかしげた。奏が言ったその名___兄の名前だったのだ。


「東条家。……幕府指名手配中、尊王攘夷一家。鴻上家の長男に毒を盛った一家」

「え……?何言って……」

「まだ、分からないのですか?」


刹那、京介の目の前に奏の顔があった。そして、首にはキラリと光る冷たい鉄の塊。

「ッ?!」

「……京介さん、私のこと好きですよね」

京介は、何が何だか分からなかった。

だが、彼女のことを愛していると聞かれたのだけは鮮明に耳に入ってきた。

頷く。

「……なら、私の親の為に――――私の為に、死んでください」

やはり、何が何だか京介には分からなかった。けれども、

「……いいよ」

「え?」

「奏ちゃん……奏の為なら、死んでも」

微笑んだ。優しく、包み込むように。





「なんですか、私の負けじゃないですか」




京介の身体に血がたんまりとついた。


「え……?」


彼は驚いた。

血の主は、

「奏?!」

奏は弱々しく微笑むと、空を仰いだ。

「私ね、愛されたかったんだ」

「子供の時から道具としか扱われなくてさ」

「でも、親はそんな私を愛する条件をくれた」

「幕府を崩壊させること。それが私を愛する条件」

「でも、貴女は私を愛してくれた」

「まだ、子供だけど。愛し合えた」

「初めて、初めてなの」

そこで奏は言葉を区切った。そして、京介の方を見る。

「ごめんなさい、お兄さんを殺してしまって」

「そんなこと……!」

何か言おう、何か言おうとする京介。が、言葉など出てこなかった。

「幸せに生きて」

「ありがとう」

「愛してくれて」

「ありがとう」

「私を見てくれて」

「……ごめんね。許してくださいね?……なんて」

静かに瞼を閉じる奏。そんな彼女を京介は抱き上げた。

「なんで……!奏!!」

返事はない。



夜の雨に消された命。

夜の雨に消された恋。
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