雨のち君
突然の雨
「今日は午後から雨が降るでしょう。お出かけの方は、雨具をお忘れなく」
たしか、今朝の天気予報でお兄さんがテレビ越しにそんなことを言っていた気がする。そして放課後、呆然と昇降口に立ち尽くす私。傘は…忘れました。ブルーな私と、一向に止まない雨。ぱらぱらと。弱くなってくれることを願いながら、雨宿りを初めて、かれこれ20分。雨は弱くなるどころか、どんどん強さは増していって。どうしよう。これじゃあ、帰れないよ。
「はあ」
自然とため息がでた。その時。
「雨、降ってるね」
ふわりと私の耳まで届いた、やわらかい、声。トーンからして、女子ではないことが分かる。いつの間にか私の隣に立っていたその人を見上げると。
「俺、結構好きなんだ。雨」
背の小さい私を見下ろしながら、そう言った。自分に何が起こっているのか分からず、目をぱちくりさせている私と、ニコニコと私に笑いかける彼。
「君は?」
「えっ私!?」
突然私に問いかけるもんだから、ちょっとだけびっくり。おかげで少し声が裏返ってしまった。
「私は、普通かな。別に、嫌いじゃないし、好きでもない」
「そっか。まあ、帰りたいのに帰らして貰えなかったら好きにはなれないよね。」
「うん。…って、え?」
「傘、無いんだろ?」
彼は何が言いたいんだろう。どうして私が傘がなくて帰れないことを知っているんだろう。今日初めて話すのに、なんだかずっと前から知り合っているような、不思議な気持ち。
「ほら」
「へ?」
目の前に伸びる長い腕。その手には、黒い折りたたみ傘が握られていた。
「使いなよ。これで帰れる。」
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