私んちの婚約者
後部座席に並んで座って、傾いた私の頭を愁也が自分の肩に引き寄せた。
そこにもたれかかると、程よい固さと柔らかさに私は目を閉じる。


あ、気持ちいい。
なんか、いい香りがする。


愁也は黙って前を向いていたけれど、無意識なのか私の頭を抱える指先がたまに髪を撫でるのがくすぐったい。
私の耳の下までまっすぐ落ちるボブの髪は、よくマキちゃんにも『気持ち良い!動物撫でてるみたい』て触られるから、きっと彼もそんな気分なんだろう。あれだ、猫カフェとかそんなんだ。

そんな、空気の合間に。


「別に、嫌いではないけど」


ん?


愁也が呟いたひとことが、私の耳に届いた。


ん?


あ、さっきの答えか。


私は呑気にそう思って、今までの間は、彼が私の質問を真面目に考えてくれていたのかとふ、と笑いが零れる。


この人、優しいんだか、そうじゃないんだか、分かりにくい人だなあ。


でも答えてくれた事がなんとなく嬉しくて、私も言葉を返す。


「そか。
私も、嫌いじゃないよ……」


私はそのまま眠りに落ちてしまった。



だから、愁也がどんな顔をしてたのかなんて、わからなかったんだ。
< 10 / 274 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop