私んちの婚約者
鮮烈、婚約者

大学に着いて、私は愁也にお礼を言う。

「ありがとう、愁也」

車を降りるのが、ちょっぴり淋しくて、私はモタモタとシートベルトを外しながらつい彼の顔を見つめてしまう。
そんな私の視線に気付いて、愁也が苦笑した。

「そんな顔されると、我慢出来なくなるよ?」

止める暇も無くさりげなく伸ばされた手が私の顎を掴んで、愁也がキスをする。

「愁也……ここ、大学の門前だよ」

「うん、知ってる」

いやそうではなく。皆、見てるけどっ……。


コンコン、と窓ガラスを叩く音がして、

「すみませ~ん、そこのバカップルさん、ここでいちゃつくのは道路交通法違反なんですけど~」

そこにはニヤニヤと笑うマキと、微妙な顔した水樹君がいた。

「久しぶり、マキちゃん。そんな法律あるの?」

窓を開けた愁也が苦笑して聞く。

「お久しぶりです。お帰りなさい、愁也さん。そうですよ~今朝から施行された新法です。大学の前でいちゃつくの禁止!」

嘘だあ……。どっちかっていうとマキ様法だよね、それ。
水樹君は愁也に視線を向けられてビクッとしてる。ああ、前に威嚇されたんだっけ……憐れ、水樹君。

「さ、講義始まるよ、梓」

私は慌てて時計を見た。

「あ、そうだね。愁也、ありがとね。行ってきます!」

「行ってらっしゃい」

振り返りつつ手を振れば、彼は優しく微笑んでいた。


すぐに、会える。
帰ったら、また、抱き締めるんだから。


何故か自分に言い聞かせるように、私は愁也に背を向けた。
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