私んちの婚約者
「た、高宮さん、氷崎さんと知り合い?」

教授が恐る恐る聞いてくる。

「いーえ!!多少血の繋がりがあるだけの、赤の他人です!!相容れない生命体です!」

「酷い女だなあ、梓。やっぱり俺が仕込んどくべきだった……」

頬を押さえてブツブツ言うカイ兄は無視する。
この大学の警備はどうなってるんだ。こんな危険人物を放置してはいけない。ダメ、絶対。


「だけどな」


カイ兄の口調が変わった。

柔らかな、穏やかな、けれど情熱的な。


「俺の写真見たら惚れるぜ?」



瞬間、講堂が静まり返った。




――壇上のスクリーンに映し出されたスライドには。



戦場の写真。



焼け野原に佇む人。

なにもない場所。

倒れた人。

虚ろな目、激しい目。

笑顔。

笑顔。

笑顔。



カイ兄の、世界がそこにあった。

美しくて、強烈で、戦慄するような。


心を、奪われるような。




「カイ兄……」



私は茫然とスクリーンに見入っていた。


カイ兄は私の様子なんてお見通しの様で。
クスリと笑う姿は、悔しいくらいに格好良かった。

「何、惚れちゃった?あの婚約者捨てちゃう?」


一言多いのよ、ばあか。
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