私んちの婚約者

講演は大絶賛で幕を閉じた。
あ、あんなんでいいんだ。世も末だなあ。

そもそもカイ兄は、うちの大学の学長の教え子で。この特別講演のオファーを受けて帰国したのだと、後から聞いた。

「俺はこのまままた海外飛ぶから。またな、梓」

講演を終えて、カイ兄は私にそう言った。

寂しい気もする。
あの写真は凄かったし、カイ兄を見直した。
けれど同時に、カイ兄はいつも危険と隣り合わせなんだってことも実感したから。

「あの小賢しい婚約者から乗り換える気になったら呼べよ?」

「そんな日はこないもん!!」

私が反応するより早く、カイ兄が私の頬にキスをした。

「!」

「ご馳走様」

このセクハラオヤジ!!

……でも何故か、もう憎めない。

「行ってらっしゃい、カイ兄」

また、会えるよね?


その背中を見送って、私はふと夢で見た彼の後ろ姿を思い出した。


でも、もう哀しくない。
あの時とは、違う。

それはきっと、愁也がいるから。
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