私んちの婚約者
side愁也

デスクで仕事をしていた俺に、神谷が封筒を差し出した。

「先程渡すように言付かりました」

差出人は『氷崎甲斐』あの変態叔父か。
実の叔父のクセに、やたら梓にベタベタするあの野獣みたいな男。
気に入らない。果たし状でも渡しに来たか?

封筒を開けて、俺は硬直した。


写真だ。


小さな女の子が、手足を投げ出して座り込んでいる。
虚ろな瞳で、涙で濡れた頬で。


梓。


思わず写真を額に押し当てる。

(なんで、こんな真似を……っ)

絶望に堕ちた梓の姿を突きつけられて。
今の俺にこの梓に何もしてやれないのが悔しい。
傍にいたのはあの甲斐だけ。

(ズルい。何のつもりだ)

俺には救えないとでも言うつもりか。


ふと、封筒にまだ、写真が入っていることに気づいた。
抜き出して見れば。



「……はは、っ」

笑いが漏れる。



写っていたのは、俺と。

幸せそうに、笑う梓。


ご丁寧に俺の顔の上に×をつけて、あの野獣の字か、

『とりあえず預けとく』と殴り書きしてあった。


「審査は合格、てとこなのかな」


ムカつく男だけど。
少なくとも梓を本気で心配して、想っている叔父。


「負けませんよ、甲斐さん」

呟いて。

「あ?もう一枚……」


封筒に残る一枚を出して。

俺は別の意味で硬直した。


明らかに盗撮した、梓のシャワーシーン……。

同封した紙に『請求書:10万円也』……!


「あんの、犯罪者……!!」

怒りでぶるぶると震える俺の手元を、神谷が覗きこんで言った。

「あ、じゃあ私が買って良いかな?」

見るな!!!


「ふざけるな――っ!!!」
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