私んちの婚約者
誘拐、婚約者
**
目が覚めると知らない場所。
広い部屋に綺麗な装飾のヨーロピアンなインテリアにキングサイズのベッド。
その上に私は転がされていた。

えーと。

思い出してみる。

確か火サスっぽく薬をかがされて。意識が無くなった。
これはもしや。社長令嬢ならお約束の!?

誘拐。


「うわーマジで?初体験だわ」

私はどこか呑気に呟いてしまった。


今までも何度か無かった訳じゃない。

だけどいつも、何とはなしに回避してきて(多分カイ兄の教育のおかげだったんだろうな)未遂で済んでる。
こんな風に完全に誘拐されたのは初めてだ。

だけどイマイチ、リアリティがない。
だってなんか、こんなゴージャスなとこに入れられてるあたり、あまり危機を感じないし……。自宅に居るより居心地良いなんて、随分と親切設計な誘拐だなあ。

そんな私の前で、ガチャリと扉が開いた。
開いた先はまた部屋らしく、ソファや大きなテレビが見えた。

扉を開けた人間は、私が起き上がっていることに気が付くと、ツカツカ寄って来る。

「気が付いたか」

くい、と顎を掴まれて上げられて。

その顔。

「あんた、誰?」


なんで。そんなにも愁也に似た顔をしてるの?

茫然とする私の前で、彼は皮肉気に笑った。
その表情すらーー愁也を思わせる。


「俺は神前透也(コウザキトウヤ)。
……天野愁也の弟だよ。腹違いのな」


愁也の、弟?
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